印傳の技法ー多色で染めた鹿革ー

一枚ごとに型紙を替えて色や模様を重ねていく技法を印傳屋では「更紗技法」と呼びます。地色染めされた鹿革に、ずれが生じないように細心の注意を払いながら模様の異なる型紙を用いて顔料をおきます。
一般に知られる「更紗」は、木綿の布に手描きまたは型染めによって物語・人物・鳥獣・草花等が鮮やかな色使いで描かれた染色品の総称です。近世初めにインド・ジャワ・タイ・ペルシャ等から交易によってもたらされ、日本では「皿紗」「紗羅紗」「沙良佐」「華布」「印華布」等とも記されています。発色良く染められた異国風の模様は江戸時代には大名や茶人、富裕層に好まれ、華やかな模様の染織品は陣羽織や小袖・莨入れ・財布の素材として大いにもてはやされました。当時、高級品であった更紗は国内で模倣されるようになり、鍋島・境・長崎等で「和更紗」と呼ばれる日本独特の更紗が製作されました。
鹿革工芸品の装飾の中にも木綿の更紗を模したものと見られる例がいくつかあります。起源は詳らかではありませんが手描きや型染めなどによる技法も類似しており、単色あるいは色の濃淡で表現された模様とは大きく異なる大胆な模様が施されています。「彦根更紗」にも似た唐草系や和更紗等の図案が鹿革にも描かれ、金更紗と呼ばれる印金の技法を用いた繊細で華やかな意匠も目にすることが出来ます。
時代を超えて愛されている更紗の多色模様は鹿革も木綿も高度で精緻な技法を用いて作られています。趣向を凝らした多彩な模様の数々を今回の展示を通じてご覧ください。

【印傳の模様 ―鹿革に見る草木— 令和6年6月22日(土)~9月8日(日)】
*7/16~8/31小・中学生入館無料