開館25周年記念展 ー新収品特集ー

鹿革の利用は古くから行われ、奈良時代の正倉院の宝物では馬具や武具の一部にも用いられてきました。革の組織構造がかなり細かい為、柔らかな肌触りが感じられると共に、模様付けなどの加工がし易い特性があることから様々な品が遺されています。
当館では鹿革工芸品を中心に印傳や製造に関わる道具などを収集し陳列しています。主に鹿革の袋物・提物・莨入・財布・服飾品・武具・遊具等を収蔵しており、時代に合わせて変わってきた鹿革工芸を通じ、日本の多様な生活文化を垣間見ることができます。
染革の方法は主に「染料や顔料による染め」と「藁などの煙による燻し」に分けられます。染めには浸染や引き染があり、模様を施す為に型紙や糸を用いて糊置き・踏込・絞りが行われました。更紗に似た型紙による多色染めも染めに含まれます。燻しは燻べる材に稲藁だけではなく松脂・松根・松葉が用いられ、糸や糊で防染して模様を施す技法も近世には確立していました。
さらに装飾方法の「型紙を用いて漆を塗る」技法は革の表面に漆をベタ塗りする技法から派生したと考えられています。現在は様々な模様の型紙などを用い、漆付け技法と称されてほぼ黒漆のみであった漆の色も研究開発により流行が反映されています。
古典資料の中には複数の技法の組み合わせや細部に金粉を施すなどの技巧を凝らした例も見られ、祈りや願いなどの精神性が模様によって表現されるとともに美しさや洒落心を追求する当時の職人の技の熱意に感嘆します。
本展では近年収集した鹿革工芸品を中心に様々な関連資料も展示しています。多様な鹿革工芸の数々を通じ、身の回り品への工夫を凝らした装飾にご注目いただき、当時の人々の美意識を感じていただければ幸いです。
印傳博物館は今年25周年を迎えました。甲州印傳をはじめとする貴重な鹿革工芸の資料を後世に傳える為、これまでに技法・模様・用途など様々な観点から93回の企画展を行ってきました。今後も地域に愛され教育や研究に資する博物館を目指していきます。

【開館25周年記念展 ―新収品特集— 令和6年9月14日(土)~11月24日(日)】