印傳の燻ー傳承された技を今にー

人類は太古の昔から火を使い、狩猟や火急の合図、食物の保存、虫除けなど多様な用法で煙を利用してきました。煙を染革に応用した技は古く、正倉院の宝物や東大寺の「葡萄唐草文染韋」にも見られ、奈良時代には模様を施す高度な技術が開発されていたことがうかがえます。
鹿革に色や模様を施す技法は燻と呼ばれています。太鼓と称する大きな筒に革を貼り付け、回転させながら竈の上部から出る煙を革に当てていぶします。鹿革は熱や煙を当てると繊維が変化し柔軟になり、独特な風合いは多くの人々を魅了しています。また水に濡れても硬化し難い実用性から江戸時代は火事装束に用いられ、頭巾や羽織が作られました。
燃やす材料は主に稲藁が使われています。稲作の盛んな日本において藁は入手しやすく、高い燃焼性があり煙が多く出ることも利点です。藁の白煙によって革は茶褐色に染まり、煙を当てる時間によって濃淡や微妙な色の諧調を生み出します。
模様を施す方法は二種に大別され、糸を巻いて防染する「糸掛」では縞模様や鶉縞模様が表され、型紙を用いて糊で防染する「糊置」によっては小紋や標章など様々な模様を表わすことが出来ます。
印傳の燻は傳承された革工芸の技を現代の作品に反映させ、文化を繋ぐ役割を担っています。
【印傳の燻 ―傳承された技を今に— 令和5年3月11日(土)~6月18日(日)】